2013年2月10日日曜日

Western Mountaineering San Jose

Western Mountaineeringといえば確かな品質のスリーピングバッグやダウンジャケットを製造するメーカとして、USはもちろん日本でもかなり有名だ。その製品に触れると「スリーピングバッグではどこにも負けん」という力強さが伝わってくる。自分もSummerliteとVersaliteを愛用しており、タグには誇らしくMADE IN USAとSAN JOSEの文字。

彼らのものづくりに単純に興味が湧いていたところ、ほどなくカンファレンスでサンノゼに行く機会を得た。

タグに書かれている住所を調べるとホテルのわずか徒歩20分の場所にファクトリーがある事がわかった。予定が読めなかったのでアポはとれない。チャンスがあるとしたら平日の営業時間ぐらいだろう。行ける保証はないがぜひ前を通ってみる程度はしてみたい。。そんな事を考えながら日本を発った。

出張して2日目、思いがけずぽっかりと1時間30分時間が空いた。このタイミングを逃すまいと足早に宿を抜けだし「前を通って写真をとれればラッキーかなー?」ぐらいの心持ちで歩き出す。周囲は住宅街だ。

住所とiPhoneのGoogle Mapを頼りに歩いていると、どうやらそれっぽい場所にたどり着いた。扉の上にはWESTERN MOUNTAINEERING MANUFACTURINGの文字!間違いなさそうだ。フラフラと前を通りかかったところ、工場の入口らしきドアがちょうどパカっと開いて中から男の人が出てきた。

これはチャンス!とばかりに

仕事で日本から来たんだけど、ちょっと寄ってみました

と伝えると最初は業界関係者かと勘違いされて警戒されたものの、日本から来た素人だとわかると

工場見たいの?

ときかれ

えー、是非お願いします!
OK、こっちから入って。

と快く応じてくれた。

名刺をいただくと生産管理の責任者の方だとわかる。彼曰く、以前細かく工場を見せてあげたら実は某アウトドアメーカーの人で、技術を盗まれてしまったことがあり、色々と敏感になっているそうだ。

写真についても引いた写真ならOKということで応じてくれた。

入口をくぐり、出荷待ちと思われる段ボール箱の山をすり抜けるていくと作業場になる。体育館ぐらいの広さはあるだろうか?


職人さん達が一様に真剣な面持ちで作業中だった。「誰かキタ!」といって手を止める職人さんはいない。皆さん黙々と作業をされている。

「彼は今、生地の切り出しをしていて次にパターンに添ってヒートナイフで切るんだ」

驚いたことにすべて手作業である。

「ヒートナイフでちゃんと溶かして切るとホツれないしフチ縫いしなくていいから軽くなる」のだそうだ。

切り口を見せてもらったがホツレは皆無。溶けた切り口はシャープで見事なカーブを描いて切られている。

これは軽量化とホツレ防止に一石二鳥のように思えるが、カッティングマシンで切るよりも何倍も時間がかかるそうだ。

案の定「このカッティングはすんごい時間がかかる」そうだが、メンブレン系の生地をのぞいて基本的に全てヒートナイフで切っているそうだ。

パターンを書いてカッティング コチラを気にする様子は全くナシ

他社のダウン製品についても少し聞いてみたところ、「モンベルは最近すごく軽いダウンジャケットを出したね」「でも僕らからすると軽すぎる。ダウンが少ないと暖かくないし、生地を薄くし過ぎると耐久性も落ちるから」とのことで暖かさと耐久性を犠牲にしてまでの軽量化はしない方針らしい。この辺はメーカーの考え方の違いだろう。とはいえWMは十分に軽いダウンジャケットを作っている。

WMは一人の職人が全行程を最初から最後まで担当する方式をとっていて、流れ作業方式はとっていない。一つのバッグは基本的に一人の職人が仕上げるのだそうだ。

椅子の上に登れば全体が撮れるよ!と言われて撮らせてもらった。手前右側でバッフルの隔壁のマーキングをしている。奥の作業台も作業しやすい特製の台だ。


ダウンの隔壁はno see um netという目の細かい網で出来ており文字通り、虫が通り抜けられない。一枚一枚手作業でJukiのミシンで縫いつけていく。WMのバッグの特徴のひとつにContinuous baffleというバッグの隔壁が上下で区切られずにつながっているいる構造があって、これを実現するためにも色々と工夫が施されているそうだ。

WMは軽いスリーピングバッグでも多くのモデルで重量的に不利な手間のかかるボックス構造を採用している。でもその分重くなっている訳ではなく、むしろ軽い。



詳細はわからなかったが、縫製や構造にも羽抜けが起きないような工夫などがあり、色々と教えてくれた。戻る時間が若干気になってしまい、ちゃんと聞けなかったのが悔やまれる。

「特許はとっているの?」

と聞いたところ、「こんなこと誰も真似しないよ(笑)とにかく手間と時間がかかるからね」だそうだ。

壁には生産途中のスリーピングバッグが箱に入れられてズラリと並んでいた。「これはAlpinelite」「これはUltralite」うお、欲しい。

縫製やカッティングについて説明してくれました

縫製が終わるとダウンの封入。WMではフィルパワー860+の大変に高品質なダウンを使っている。大きな掃除機のような器具でバッグに入れていく。

ダウンの封入作業


創業者のひとり、ゲイリーさんも紹介していただいた。ちょうど出荷作業のようで忙しそうにされている最中、少しだけお話できた。やはり業界関係者を警戒しているのか「業界の人間か?」と聞かれ「ぜんぜん違うよ」と身分を明かした。「日本から来てWMのスリーピングバッグを持ってる」と伝えると笑顔で

「部分的に中国で作ってるんじゃないかって思われてるみたいだけど、何から何までここで生産してるんだ。驚いたろう?」

と誇らしげに答えてくれた。ちなみにカタログやWebの古めかしい写真は創業者のおじいさん(ハイカー)が撮った写真なんだとか。

製品の最終検査も時間をかけてやる

パターンカッティングから縫製、フィル、検査まですべてサンノゼでやっている。すべてが手作りで完全にMade In USAなWestern Mountaineering。品質を何より優先する企業姿勢に感銘を受けました。

Youtubeで見つけたWMの動画も参考になります。